2010年7月29日木曜日

21 June 2010-ORT





インプロが息ずく町ブパタルにて-5


齋藤氏のブログを読んでいくと21日の公演までにジャン、ウテの3人で何度かリハーサルを試みていたようである。公演中、齋藤氏の弾くコントラバスの弓や,踊るサスポータス氏の身体が紙の紙のインスタレーションに触れ壁に映る影がたおやかに振動し、観客席にいる私もこのイベントに参加している実感を味わうことができた。
 公演は大成功のうちに終了し、大きな拍手がなかなか鳴り止まなかった。齋藤氏の一連の公演やワークショップに4度も足を運んだという方もいた。サスポータス氏が公演終了の挨拶の最後に紙の装飾を記念に持ち帰りくださるよう告げると、沢山の観客がサインをもとめて私の周りに集まった。
 これまでは,齋藤氏の深い音楽性とアーティストとしての精神性に敬意を評し、一ファンとして周辺で係わらせていただいた。今回、齋藤、サスポータス両氏の計らいで彼等の活動に参加させていただけたことは私にとってこの上なく光栄な出来事であった。
 齋藤氏は国際的に活躍するコントラバシストであり、多くのジャンルのアーティストと積極的に交流している。「それぞれの世界の友人,知人,物事も同じように繋げつことができるのでは?」という彼の思惑があり、「世代も性別も国籍も民俗も過去も未来も宗教も超えて、あるいは、結ぶ『橋』になりたい」という彼の思いが実を結んだ。
 今回のブパタルの滞在の中で、はるばる日本から駆けつけた方々、現地での多くの出会いを通して、繋がることの素晴らしさを改めて実感させていただくことができた。今回の出会いの中からまた新たな交流が始まっていくことを期待したい。

Jean Sasportes & Ryoutaro Yahagi

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インプロが息ずく町ブパタルにて-4



* 急遽実現したパフォーマンス

 20日には,日本からやって来た矢萩竜太郎君を迎えて急遽公演が開催されることになった。竜太郎君は軽いダウン症の青年である。齋藤氏を慕い、サスポータス氏と踊ることを夢見てはるばるブッパタルまでやって来た。
 菊池奈緒子さんもフランクフルトから彼女の娘さんと琴を車に乗せてその日のために駆けつけた。ブパタルの音楽シーンに彼女を繋げようという齋藤氏の計らいである。
 徹、ウテ(アコーデオン)に加えて菊池さん(琴)クリストファー・イルマー(ヴァイオリン),そしてジャン,竜太郎君のダンス公演がいよいよ始まった。わずか2日前の告知にもかかわらず会場は観客で一杯となった。
 演奏もダンスもそれぞれの持つ個性や力が調和して素晴らしい公演となり,至福の時を過ごさせていただいた。大きな拍手が長く続き公演の幕は降りたが,竜太郎君は感極まって号泣,私も感動で涙が止まらなかった。
 そしていよいよ本番の21日を迎える。

2010年7月24日土曜日

インプロが息ずく町ブパタルにて−3

 ・会場を祭祀の場へと変えるペーパー・インスタレーション

 私はかつて台湾や韓国で葬送儀礼の調査に関わった事がある。祖先を敬い崇拝する様々な祭祀の中で斎場を飾る紙の装飾に強く引かれた。日本語の上(カミ:heaven)− 神(カミ:god)− 紙(カミ:paper)とゴロ合わせのように繋いでいくと,いにしえの昔貴重であった紙の装飾を持って祭場を飾り,神(先祖の霊)と交信した事も頷ける。 
 近年は静岡周辺で御神楽を観歩いている。人里離れた山里で催される収穫や出産に感謝し,平安や豊穣を祈願して神に奉納される音楽や舞いを,今回の公演に重ね合わせた。演者、観客、そして死者の魂がともに集い,出会いに感謝し,平和を祈り,共に祭りを祝う。そんな空間をイメージして,神の舞い降りる聖なる場所としての紙のインスタレーションを企画した。
 すると、サスポータス氏が過去数10年の間に撮りためた彼と交流のあった人達のポラロイドのポートレートを飾れないかという。800枚にも及ぶ写真の中から彼と深い絆で結ばれた人、あるいはORTと関係のあった人々のポートレート40枚程選び,舞台の正面には大野一雄、ジャン・サスポータス、ピナ・バウシュ、ペーター・コバルト等の写真をインスタレーションの中に散りばめた。会場の側面にも一列に30数名のポートレートを展示した。
 こうしてORT(ドイツ語で場所を意味する)は,死者の魂も交えた祭祀の場と化した。